どう考えても自立阻害法というしかない!
〜障害者自立支援法案〜
芦屋女子短期大学
杉本 章
2月10日に国会に提出された「障害者自立支援法」(案)は、郵政民営化問題をめぐる紛糾から一時国会審議がストップしたあおりで、当初、5月中に衆院通過、6月にも参院で可決成立という予定がかなり遅れているようである。また、5月12日には東京に全国から6千人を超える障害当事者、関係者が集まって日比谷公園で大規模の集会が開かれたが、この集会に出席した各党代表の発言からも、焦点となっている「応益」負担や家族負担問題など、政府案の一部修正は不可避との見通しも出てきている。最近の情報では、6月第1週に自民党が民主党に対して修正協議に入りたいと申し入れたとか、それでも会期延長がなければ成立は困難との見通しが伝えられている。しかし、どのような決着になるかはこの小文を書いている時点(6月20日)では未だわからない。国会の会期が8月中旬まで延長されたが、これが法案審議にどういう結果をもたらすかが気懸かりである。
目下のところ、国会での論議も大方のマスコミ報道も専ら費用負担問題(利用料の1割自己負担、精神障害者の通院公費負担・更生医療・育成医療の1割負担、公費負担医療と補装具の1割負担や施設入・通所者への水熱光費・食費の実費負担、さらには家族負担問題など)に焦点が当てられているようだが、「自立支援法」(案)の問題点はそれにとどまるものではない。
また、法案の帰趨とは別に、制度の具体的な運用や手続きを決める関連政省令・告示事項が213項目もある。この国の法制の特徴として、法の理念や目的にはそれなりにもっともらしいことが書かれていても、政・省令で規定される実際の運用となると、適用範囲の狭さや手続きの繁雑さとあいまって結局は法に謳われた理念・目的から遠くかけ離れたものになってしまうことがしばしばあるから要注意である。
たとえば、法案第1条には「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ(この部分がくせ者である。ノーマライゼーションの考え方からすれば「その有する能力及び適性に応じ」ではなく「障害の有無や程度にかかわらず」でなければならない)、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い」とある。果たして、この法案によって障害当事者は「自立した日常生活又は社会生活」を営むことができるようになるのだろうか。以下、費用問題とは別にいくつかの問題を挙げておきたい。
一つは、障害程度区分の導入と認定にあたって市町村が設置する審査会又は障害者更生相談所等の問題である。障害程度区分の認定を行う際の基準等は政令で、支給の要否決定に当たっての勘案事項は厚生省令で定められる。現在、障害程度区分の認定に使用する、100項目以上にも上る調査項目について、モニタリングの試行調査が行われているようだが、介護保険の要介護認定のための調査と同工で、これによって当事者のニードがきちんと把握できるかどうかははなはだ疑問である。また、審査会は医師をはじめいわゆる「専門家」によって構成され、サービス利用当事者の意見が反映される仕組みにはなっていない。当事者のニードよりも、割り当てられた予算の範囲内に支援費の支給量を抑え込むことが主眼になってしまうのではないか。
二つ目に、この法案では通所授産施設や小規模作業所、またグループホームの対象者を障害の程度別にふるい分けようとしている。授産施設等では、軽度者には一般就労への移行プログラムと称する訓練が有期限で課せられ、中・重度の人にはいわゆる福祉的就労や生活訓練的なメニューでお茶を濁される。グループホームも障害程度別に分けられ、重度者はケアホームというミニ施設で職員のみが対応、中軽度者にはグループホームでのホームヘルパーの利用を認めない、さらに軽度の人は単なる宿所としての福祉ホームか在宅者には不動産屋に丸投げするような「居住サポート」といったように、これまで障害の種類や程度にかかわらず、地域の障害者拠点としての役割を果たしてきた通所施設や小規模作業所、また地域生活の場としてのグループホームの機能をバラバラに分解しようとしている。
三つ目に、ガイドヘルパー。これも重度者と中軽度者が分けられ、前者には「行動援護」や「重度訪問介護」として個別給付(義務的経費)がされるものの、その他は「移動支援」として市町村事業(裁量的経費)に任される。
その他にも多くの問題点、自立阻害要素が含まれているが詳細に論ずる紙幅がない。
自立支援法案は要するに、「『自立』の概念を就労とリハビリテーションに矮小化し、給付管理の仕組そのものを必要優位から割当優位に転換することを眼目とした厚生労働省の『最終兵器』」(岡部耕典『ごんた通信』Vol.90所収)という評が正鵠を射ている、まさに「障害者自立阻害法」と言わざるをえない。