特集2
精神障害者にとっての自立支援法
4月から障害者自立支援法が施行され多くの障害者の不安の声が聞かれます。中でも新たに三障害が一本化されたということで自立支援法の対象に入った精神障害者にとっては、これまで利用してきた精神障害者通院公費負担医療の廃止、新たな自立支援医療やヘルパー等の福祉サービスの利用における1割負担など、不安なことだらけではないかと思います。そこで、今号の特集の2本目として、「精神障害者にとっての自立支援法」を取り上げ、大阪精神障害者連絡会(ぼちぼちクラブ)事務局長の塚本正治さんから、精神障害当事者の立場でこの自立支援法をどうとらえるか解説していただきました。また、先日ピア大阪が主催した人権講座で塚本さんが語られたことについても掲載させていただきました。なお、自立支援法については次号も続けて取り上げる予定です。
〜精神障害者のニーズから見た障害者自立支援法〜
―介助を中心に―
大阪精神障害者連絡会  塚本 正治


大阪精神障害者連絡会では、「私たちはどんな支援を求めている?1000人アンケート調査」を本年8月8日より開始し(対象者は呼びかけに答えてくれた精神障害者)現在も続けている。9月20日時点での289名分の集計を基にしながら、介助問題および障害者自立支援法の問題に迫っていきたい。 塚本正治さん画像
■「ないと困る個別支援」からみえてきたもの

 「ないと困る個別支援」の第一の高ポイントを示している項目は「安心して暮らせるお金」である。所得保障が必要であること〜ずばりこれが一番である。「所得保障なき定率負担」は精神障害者の暮らしをさらに貧しくする。国は、障害年金の充実をはじめ、精神障害者の地域生活の破綻につながる通院公費負担制度の廃止を撤回し、就労を妨げている「欠格条項」を即時撤廃すべきであろう。
 第二の高ポイントを示している項目は「必要な情報を教えてくれ、相談にのってくれる人」「病の体験をわかちあえる仲間」である。精神障害者は地域生活の中で、病をわかちあう相手も見当たらず、生活を手助けしてくれる情報もつかめず、相談者もなく「ひとりぼっち」の状況を強いられていることがわかる。「ひとりぼっち」状況は再発につながるケースが多く、地域生活の崩壊につながっていくことが危惧される。
 第三の高ポイントを示している項目は「ふだんの生活がおっくうでできない時、電話で来てくれる信頼できる人」「孤独な時、電話でしんどさを聴いてくれる人」「体調が悪い時、電話で応対してくれる人」「外に出ることができない時、食事等を買ってきてくれる人」である。
 第二の項目と第三の項目をあわせて考察すると、電話相談支援や訪問支援が、ホームヘルプや地域生活支援センター等地域生活資源、セルフヘルプ活動、ピアサポートのネットワークにより、質的にも量的にも拡充される必要があるのではないだろうか。

■精神障害者と介助〜ADLを基準とする障害程度区分認定における問題点

 第四に、「一日一回くらい、みまもりのために家にきて一緒に部屋の片付け等をしてくれる人」「一週間に一度くらい、みまもりのために家にきて一緒に部屋の片付けをしてくれる人」「二週間に一度くらい、みまもりのために家にきて一緒に部屋の片付けをしてくれる人」の項目はそんなに高いポイントを示していない。ひとつの理由として「一日一回くらい」「一週間に一回くらい」というサービス利用の頻度について、当事者自身答えることの難しさを示しているように推察される。
 私たち精神障害者は、「通常の生活をなんとか送れる状態〜通常の生活を送ることが困難な状態〜病気の再発状態」という状態を日々、何らかのこと(人生や日常生活に関わること等)をきっかけに移り変わっており、その状態ごとの生活障害を有すると考えられる。これが「体調の波」と呼ばれるものではないか。日常生活は「なまもの」であり、いつ何をきっかけとし状態が変わるかわからない。この項目に答えてくれた当事者は「それぞれに何らかの経験則や環境的条件を持っている」か「非常にせっぱつまって日常生活支援を求めている」と推察することができる。
 これらの事と重ね合わせて考えると、ADLを基準とした現在の「障害程度区分の基本調査」回答項目〜「できる/できない」「見守り/一部介助/全介助」では、状態の移り変わりとその状態ごとの生活障害を有する私たち精神障害者は答えることができない。もしくは「できる時もある」ので「できる」と答えてしまう可能性が非常に高い(障害程度区分判定の全国モデル事業における精神障害者の一時判定での3割の非該当と二次判定の格差を見れば一目瞭然である)。だから「障害程度区分認定調査票」の「全回答項目」について、「できないときが時々ある/できないときが煩雑にある」をまず設定した上で、それぞれの状態の時に「みまもり支援が必要/一部相談支援が必要/かなりの相談支援が必要」と設定しなおすことが急務である。
 また、精神障害者の障害特性に配慮した設問項目(睡眠・薬の副作用・体調の移り変わり・病や障害の受容・状況への対応・時間のすごし方・外出等社会参加・現在と将来の希望・退院への意欲等)を盛り込む必要がある。「障害程度区分判定」についての十分な議論なしに「三障害統合のサービス体系」をつくれるはずなどない。精神障害者は「三障害統合のサービス体系」という「障害者自立支援法」のキャッチフレーズのだしにされた感は否めない。
 第五に「診療所へ行くのが大変な時、いっしょについて行ってくれる人」「役所、銀行などいっしょに行ってくれる人」「周りの状況の変化についてゆけない時、寄り添って話を聴いてくれる人」などの項目はかなり高いポイントを示している。地域生活におけるガイドヘルプの必要性を強く感じる。
 思うに、私たち精神障害者の地域生活は「部屋−医療機関−作業所等地域生活支援」という「狭い三角地帯」に押し込められているのではないだろうか。この領域を広げ、社会参画をより促進するためにも、地域生活におけるガイドヘルプは重要であると考える。
 第六に「周りの変化についてゆけない時、寄り添い、話を聴いてくれる人」「時間の過ごし方がわからなくて苦しい時、いっしょに過ごせる人」の項目が一定のポイントを示している。この項目は言わずもがな、精神障害者の生活障害の特性についての項目である。しかし「障害程度区分認定調査票」にはこれらの項目はなく、なかなか理解されにくい精神障害者の生活障害の特性が切り捨てられていくことが想像できる。

■届かなかった当事者の声

 「私たち精神障害者の声を聞かずして、私たちのことを決めないで!」〜この叫びに国が耳傾けずして「定率負担」をはじめ、多くの問題点を抱える「障害者自立支援法」を国会成立させたことは「棄民政策」そのものであることを最後に述べておきたい。

この記事は、DPI(障害者インターナショナル)日本会議の機関誌「DPIわれら自身の声 第21−3号」(2005年10月発行)から、筆者と発行者の了解を得て転載させていただきました。


ピア大阪人権講座での塚本正治さんの提起(速報)

 この間、精神の当事者は自立支援医療の申請で大変な思いをしている。医療機関もごった返している。当初対象者は「重度かつ継続」のみで、統合失調症、躁と鬱の両極をもつ人、難治性てんかんの3つの病名のみに限られていた。通院公費負担医療が削られるということで2ヶ月間で23万人の署名を厚労省に提出した。何とか自立支援医療の対象者は32条利用者にまでは広がったか? 医療現場では患者もワーカーも疲弊していた。厚労省が説明すべきだ。もう申請はイヤというおばあちゃんもいた。でも申請しなかったら3割負担になる。この煩雑な作業で、医療から切れて、入院に至るとか、命を絶つとかいう事態が起こったら厚労省は責任が取れるのか?
 ホームヘルプは4月から費用徴収される。それならヘルパー要らんと精神の仲間は言う。精神当事者には生活保護以下の生活の人もいる。年金・作業所の工賃・バイトで暮らす人々。応益負担にされるとサービス利用をやめるだろうことを危惧する。
 認定調査も、法案段階で対案を出した。まず障害とは何かの定義がないのに程度をどう計れるのか? 設問が身体機能に着眼しているので、我々精神障害者の症状の波を考慮に入れていない。僕も体調の悪い時は伏せっていて風呂も入れない。「できる・一部介助・全介助」と問われると我々は全部に丸をするしかない。そうするとコンピュータはエラーと判定する。この認定調査は欠陥商品だ。症状の波が反映されず、睡眠が重要な障害特性に基づく項目を入れて!と要望したが無視された。問題行動として、大声をあげる、服を破る、盗むなどと聞かれたら人は傷つくよ。失礼じゃないか!
 大精連では1000人にアンケート調査した。掃除・風呂がイヤ、人に会いたくない、外出したくない。しんどい時に居宅介護のニーズが出てくる。だが認定調査には反映されない。非該当や区分が低く認定されて現行のサービス利用よりも落ちてしまうことに対する救済措置を講じて欲しい。
 社会生活支援事業の中に退院促進事業がある。これは大阪発の事業だ。大阪府で退院促進事業を利用している人は平成17年度で約70人であり、その内退院できたのは約30人である。そのために府は予算を約4千万円かけている。厚労省は10年で7万2千人を退院させると言う。退院促進はコツコツとした事業。「退院しましょう!」と誘っても「しません」という長期入院者の壁、シャバが怖い。退院後の地域生活がイメージできない現状が、三食足りる病院で安住してしまう。厚労省は7万2千人の退院実現のためにどのような施策の準備があるのか? 法に位置づける以上、予算措置も含めてどう考えているのか?
 国は我々当事者の声はほとんど聞かないくせに、精神病院協会や医師会には弱腰。病院敷地内に退院促進のための移行型ホームを作りたいと、社会保障審議会は重点施策として打ち出しているが、これには反対だ。敷地内で患者をグルグルたらい回しして税金を投入し続けている。退院促進と言うなら、箱ものを作らず、敷地外にグループホーム・ケアホームを作って欲しい。必要なのは人手だ。病院から出るのが怖い人を散歩に連れ出し、買い物に連れ出し、一緒に電車に乗り、作業所に行き、外泊体験もして、退院できるね!と進めていく人材に金をつけないといけない。退院による削減分を移行型ホームで埋め合わせるのかとうがった見方をしてしまう。現在の敷地内グループホームの実態把握もなく、移行型ホームの条件に付すのはおかしい。
 生活支援センターには相談事業もサロンも退院促進もある。地域活動センターとして延命せよということらしいが、地域生活支援事業のエリアでの費用徴収はやめてもらいたい。今まで外出し辛かった仲間がようやく支援センターや作業所に行きだした。金を取られるなら利用しなくなる。生活支援センターの費用徴収は事業団体で判断して良いと厚労省は言うが、徴収しなくとも満額おりるのか明確にして欲しい。支援センターでは電話相談がとても多いが、ケアプランを立てないと単価にならない。電話相談に正当な単価を要求したい。長時間の、定期的な、ヘビーな電話も多く重要な役割を担っている。また、支援センターはいつでも気楽に相談に来られるような空気が大切だ。僕の勤める「精神障害者地域生活支援センター・すいすい」では、7年前の開所の際、地域住民からすごい反対運動があった。仲間達の応援で半年でクリアしてきた。我々は自分達の事業を曲げて、法律にあてはめるような志のないことはしない。

(2006年3月25日のピア大阪人権講座での発言を編集部の責任でまとめました)


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